世界の至る所で戦火が広がり,多くの人々の日常生活が奪われている現在,私たち教育に関わる者たちは,少なくとも教え子が戦火に巻き込まれることが無いような社会を目指して,日々の教育に対して責任を持つことが大切ではないかと考えてしまいます.
ネット等では,日本のこれまでの教育について批判的に意見を語る論客も最近増えてきたようですが,皆様はお感じになりませんか.一方で,私の身近な友(退職教員)が,これまでの日本の教育にどのような問題点があるか分からないと言っていました.実に悲しい話です.
さて,今回はヴィゴツキーによる発達の最近接領域の話題についてです.この内容については,「思考と言語」のp297 L16から約6ページにわたって書かれています.
発達の最近接領域については,多くの人がWeb上で説明を行っていますので,ここで改めて説明を行うのではなく,ヴィゴツキーが著書「思考と言語」でどのような説明を行ったかについて解説することにします.
①子どもの知的発達の水準について
この章のはじめにヴィゴツキーは,「思考と言語」を記述するまでの心理学研究では,ふつうの子供の知的発達に限定して研究がなされてきたと述べ,子どもの発達状態をふつうの子どもの知的発達の水準だけで決定するのは不十分だと述べています.
②知的発達の水準の決め方について
続いてヴィゴツキーは,このような水準をどのようにして決めるのかについては,子どもが自主的(注:おそらくは自力の意味)に解いた問題で決めると述べています.さらに,この水準については,「今日(today)」という言語を用いて表現していることから,日々変化する量であるという認識を持っていることも分かります.
ここで余談ですが,既出の元教員の友は,子どもが書いた事からは,子どもが理解したことは分からないという意味不明な事を言っていますが,私にしてみれば,その友の言っていることが意味不明です.(^^;)
③発達の最近接領域の発想
ヴィゴツキーは,はじめは今の発達水準だけを決定すると述べていながら,子どもの発達状態というのは,今の発達水準(注:これを成熟した部分と呼んでいます)だけで決定されるものではないと,自分の述べた事を否定しています.
そして,リンゴ園の経営者が成熟した実を結んでいるリンゴの木だけで,リンゴ園の状態を明らかにしようとするのは間違いであると指摘したうえで,心理学者も子どもの発達状態を評価するとき,成熟した機能(=子どもができること)だけでなく,成熟しつつある機能(=子どもができつつあること)を,「発達の最近接領域」という言語を使用して,考慮しなければならないと述べています.つまり,子どもの発達状態を評価するには,現在の水準はもちろんですが,成熟に最も近づいた次に発達する領域をも考慮しなければならないと言うのです.これが発達の最近接領域の意味です.
④子どもの今の発達水準の決定方法
ここで述べているのは,知能の発達であることを抑えて置く必要があります.つまり知的発達です.ヴィゴツキーは,今の(知的)発達水準を決定するときには,子どもが自力で問題を解く必要があることを強調しています.つまり,他者の力を借りた解決では測定できないということです.このときに出される問題は,既に成熟した機能のみを測定できる問題が利用されると述べています.ですから,学校教育の中で一般的に行われている評価テストが,凡そこれに該当します.
⑤発達の最近接領域についての思考実験
ヴィゴツキーは,このあと思考実験を試みます.彼は,同じ8歳の知能年齢を持つ2人の子どもを想定しました.そして,彼らが自主的には解くことができない,その後の年齢の問題,つまり9歳の問題から12歳の問題を用意します.次に,これらのうち9歳の問題から順に誘導質問や解答のヒントなどを与えて教示しながら,彼らがどのように解くかを明らかにしようとします.
すると彼らのうちの1人は,12歳までの問題を解くことができたのに対して,もう1人は,9歳までの問題までしか解くことができなかったと仮定しました.このときの2人の子どもが問題を解く様子としては,「共同のなかで助けられ,指示に従いながら」という記述があります.これが,どの程度の支援なのかは不明ですが,私の経験から考えるに,かなり支援の度合いが高いように感じました.
この思考実験の結果を図にすると,次のようになると考えます.

ヴィゴツキーは,子どもAと子どもBの発達の最近接領域について,子どもAでは「1」で表され,子どもBでは「4」で表されると述べています.つまり,発達の最近接領域は,個々人でユニークで異なる値を示すということです.
ここでヴィゴツキーは,さらに重要な提言を行っています.つまり,8歳までの問題においては,AとBの二人の子どもは同一の知能水準であると認められますが,発達状況においては二人は一致していないと強調しているのです.
今回はここまでとします.次回も,発達の最近接領域についてのヴィゴツキーの記述を読み解いていきたいと思います.