いつも丁寧にお読み頂き,ありがとうございます.このブログでは,学校現場の先生方に,認知科学的視点を身に付けて頂きたく記事を書かせて頂いています.
一般的に教育学部では,認知科学に関する授業が行われていない場合が多いと感じています.従って授業の設計や実践,あるいは事後の分析等で先生方が,「入力⇒処理⇒出力」のような情報処理的過程をイメージして議論することは少ないのではないでしょうか.また自分の過去の教職経験からも,提示されたコンテンツを児童・生徒がどのように知覚し,認知するかなどもあまり議論の対象にはなっていなかったように感じています.ましてやどのように記憶されるかなどの議論は皆無でした.
この本は,修士課程の大学院時代にお世話になった一冊です.副題は「認知心理学と教育実践が手を結ぶとき」となっていますので,なぜ認知的な視点を持って授業を行った方が良いかが分かる本です.
さて今回は「記憶再生マップ」の実践を通して,児童がノードに記述した言語や絵図等をどのように分析するかについて紹介します.私は博論を執筆する以前から,現場では記憶再生マップの実践を多く手掛けてきました.その中で,実際に児童の描いた記憶再生マップを見ながら児童に問いかけたりすることによって,どのような記述が深い理解に至るのかや,どのような記述の行為が児童の気づきの結果であるかなどはある程度知っていたつもりです.
ただ,論文にするためには,児童の記述した記憶再生マップを分析しなければなりません.そのためには,児童が描いた(書いた)ノードの言語を中心ノードから順に取り出していく必要があります.ここでは,2番の児童が描いた次のマップで説明します.
これを見ると,中心ノードから4つの第1ノードの方向へ言語や絵図がつながっているのが分かります.中心ノード(もののとけ方)と4つの第1ノード(とける,重さ,とりだし方,とける量)が私の提示した内容でした.博論では,この4方向のなかで,とけるから派生した言語については,指導内容ではありませんので調査から除外しました.
また,いくつかのノードに描かれた絵図については,絵(ろ過の仕組み)や絵(漏斗にホウ酸が溜まる仕組み)などのように私(教師)が考えた絵図の説明を用いました.博論では,このようにして取り出した言語のつながりを,次のようなExcelのセルに転記し順に読み解くことにしました.例えば,赤の矢印が「とける量」から派生した2番の児童が書いたノードのつながりです.これを読み解くことで記憶再生マップを描くことの効果を確かめようとしたのです.実際の結果は,序章の後に書いています.
これと似たような取り組みを,2013年に京都大学の松下佳代氏らが「深い学習評価ツールとしてのコンセプトマップの有効性」という研究論文にまとめています.コンセプトマップですので記憶再生マップとは異なりますが,私が記憶再生マップについて調査した結果と似たような結果になっています.
このことについては後日詳細しますが,簡単に言えば「書き込んだノード数(=リンク数)が多い児童は,よく理解している」ということですので,授業で記憶再生マップを描かせながら,ノード数を俯瞰するだけで,概ねその児童は学習内容を理解していることが分かるという事になります.
博論では「仮説②の検証方法」の最後に,一般的に行われている分かったことを文章で記述させることと,記憶再生マップを描かせた後に分かったことを文章で記述させて,その違いを明らかにする旨を書いています.
かなり込み入ってきたので,不明な点はコメントして頂くと助かります.
今回もお読み頂き感謝申し上げます.