記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

教師の発話が児童の誤概念を形成するメカニズムとその検証方法

 つもご覧頂き,ありがとうございます.

 てこの回は,私の博論に戻り,仮説検証の方法についてご説明いたします.

 「仮説①」「教師の発話に起因する児童の誤概念は,教師の別の発話やジェスチャーにより修正される」

 の仮説を設定した理由としては,学校現場で授業を行っていると,様々な場面で教師の発話が原因で児童の中に誤概念が形成されていることを経験上知っているからであり,その対処法についても経験上獲得したからです.

 の誤概念は,教師の発話内容が児童にとって理解できない時に,続けて発話される理解可能な教師の言語が,理解できなかった言語に対する熟考を阻害する言わば逆向抑制と呼ばれる現象が起こった場合に形成されるようです.つまり,教師としては児童が理解できると思い込んで,発話したことが原因と考えられます

 れまでの研究論文のなかで,このような教師の発話によって児童の誤概念が形成されることを取り上げたものは,以前にも書いたように自分の論文以外には確認できませんでした.(他の論文をご存知の方は教えて下さい)

 一つ例を挙げますと,次のような教師の発話で誤概念が形成されそうです.

 ある先生が,5年生の理科の時間に

「今日から,もののとけかたについて勉強します.皆はこれまで,いろんなものとけているところを見たことがあるよね.そのときどんな感じだった?」

と発話したとします.それを聞いているある児童が,次のように感じたとします.

 

 生の発話のタイミングが早ければ,児童に考える時間を与えません.ですから,いったい「もの」とは何かという思考が置き去りにされています.それで,最後にはヒューリスティクスによってアイスクリームがとけると考えたようです.ヒューリスティクスとは,直感に近い感覚で答えを推測する方法です.先生は当然ながら,食塩や砂糖などを水に溶かすということを前提に発話しています.

 のブログでも以前に紹介しましたが私の調査によると,小学校5年生の「とける」という言語の理解は,約8割が融解でした.つまり,「ろうそくがとける」「チョコレートがとける」「アイスクリームがとける」「チーズがとける」「氷がとける」をイメージしたことになります.一方で,「塩が水にとける」や「砂糖を水にとかす」などをイメージした児童は2割程度でした.理由は経験の差です.私が小学生の頃は,ジュースは粉末を水に溶かして飲んでいました.ですから「とかす」という言語に対する理解も二通り持っていました.しかし今は,ジュースは液体で購入するものですし,よほど興味を持って料理のお手伝いをしない限りは,溶解の体験はしません.しかし授業では溶解現象を学習するのですから,上の絵のようなことが容易に起こります.

 すから仮説①の検証には,「経験」から得られる理解という意味で,スキーマに関する調査についても行う必要が生じたのです.

 

 説検証の方法としては,概ね次のような手順に拠ります.

(1)教師の発話する言語によって誤概念を生じさせる.この誤概念は,児童が心象を抱きやすい名詞を用いる.

※誤概念が発生していることを確かめる.

 

(2)生じた誤概念を更なる教師の発話やジェスチャーによって修正を試みる.

※児童のスキーマにあると考えられる概念をイメージしながら発話したりジェスチャーを行う.

 

(3)(1)と(2)で児童が描いた形を比較し,概念の修正が出来ているかを判断する.

(4)なぜ誤概念が生じたのかや,教師の更なる発話やジェスチャーで概念の修正ができたどうかの判断を,児童が描いた絵によって行う.

 

 のような検証授業を通して,教師がどのようなことに留意すれば誤概念を形成させないか,また誤概念を形成させたとしても,どのような再発話によって誤概念が修正されるかの考察を行うことになります.

 

 今回はここまでとします.丁寧にお読み頂きありがとうございました.次回は仮説②の検証方法についてご説明いたします.