記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

海馬とスキーマ:意味ある経験が学習を促す

 前回の海馬の話は,納得いただけましたでしょうか.今回は予定を変更して,もう少し海馬について考えてみます.

 回の内容を補足しますが,海馬の記事を紹介している某サイトに,「海馬は地図が好き」みたいなことが書かれていたのですが,おそらく場所細胞(Place cell)の事を紹介されたのだと思います.しかし,そのように書いてあるからと言って,授業で地図を使うと効果的であるという事ではありません.

 れまでも東京大学の池谷博士のような脳科学の研究者が,海馬について様々な機能や仕組みについて解き明かしていますが,前回の記述でも紹介したように,海馬には様々な状況に反応する細胞があり,それらがアッセンブリーとして機能することで,現在の経験を内部表象すると書かれていましたね.つまり海馬体の細胞同士は,ニューラル・ネットワークの状態で外界からの情報を処理しているのです.

 のような話は,認知科学を勉強された先生方は,「イメージ・デーモン」「特徴分析デーモン」「認知デーモン」「決定デーモン」や「おばあさん細胞」の話を思い出されるかも知れません.つまり海馬やその周辺には,様々な刺激に反応する細胞があり,細胞単体で動くのではなく,関係する細胞が連携して刺激の内容を解析していると考えるのが自然です.

 えば,目には常に膨大な量の情報が入ってきます.自動車を運転している時には,主にフロントグラスを通して道路状況,前方車両や対向車の状況,左右の風景や通行人などものすごい量の情報が時々刻々入ってくるわけです.その中で,必要な情報は取り入れられ,海馬を中心として処理されます.

 日のような雪の日には,特に路面の凍結具合を判断しているはずです.融けているか凍っているかは,脳が瞬時に判断します.おそらくは,水の状態,或いは物体の表面の状態を認知する事に特化した細胞があり,路面の光り具合で過去の経験の内部表象と比較しているはずです.そのことによって,右足の筋肉を動かして速度を落としたり,落とさなかったりをしていると考えられます.

 

 かし,その他の入力された情報は消去されていますね.例えば,左右の家並みの情報はすぐに消失しています.ですから後になっても思い出せません.記憶として残っていないのです.

 はなぜ,こんな日には路面の状況を脳(海馬)が注視するのでしょうか.それは,「路面が凍結すると,車のコントロールが困難になる」という知識があるからです.その知識と氷が融けた状態や凍っている状態の内部表象は,スキーマに保管されています.この明文化された意味記憶は,無意図的に利用されることが分かっています.無意図的とは,「意識されることなく」という意味です.ですから,意識することなく海馬の細胞と連携を取って,体の筋肉をコントロールしていると考えられます.ただ,このような事ができるというのは,学習の為せる技だと言えます.「雪道は危ない」と学習したからこそ,海馬の中の細胞が活性化したのです.

 の事から考えられる学校教育で重要なこととは,意味ある経験(※この場合は,「雪道を運転できた」)をつくり続ける事です.そしてそのためには,まずは以前の知識から成るスキーマの内容を充実させることが重要です

 回はここまでです.いつも丁寧にお読み頂き,ありがとうございます.