今回は,「仮説②」について説明します.本年もよろしくお願いいたします.
仮説②「児童の知識モデルとして,意味ネットワーク・モデルの手法により,児童が自己の概念を概観できる形で表象し,それらの関係性を考える機会や他の児童に説明する機会を設けることにより,概念の再構成が可能となる.」
このように,ここでは教師の発話による誤概念の問題は解決したという想定で,話が進むことになります.ここでのポイントは,概念の再構成ということでしよう.
教師の発話による誤概念の形成問題が解決されると,児童は授業のエピソードや獲得した知識を記憶に留め保持することになります.これらの記憶は,海馬と呼ばれる部位で概念化されます.
ところが,記憶は必要に迫られて初めて利用できるようになるのですが,想起する必要のない記憶やリハーサルをしない記憶は,徐々に消失します.
ちなみにリハーサルという心理学用語は簡単に言えば,何度も言語を唱えて忘れないようにすることです.
最近では,スマホの二重認証でパスワードの他に,SMSやメールを通じて送られてくる短い数字の文字列を,唱えながら入力する場合などに使うやり方もリハーサルです.絶えず繰り返し唱えないとすぐに忘れてしまう脳の部位に入力されるからです.通常は,スマホの文字列コピー機能を使ってペーストしますが・・・・.
ところがパスワードは,唱えなくても忘れていません.それは,しっかりと概念化され記憶されているからです.つまり,そのパスワードの文字列は,他人から見れば全く意味の無い文字列ですが,あなたにとっては「意味ある」ものです.
概念化とは,自分にとって意味を持たせることですし,概念化すると意味が分かりますので説明することが可能です.例えば,「〇〇〇〇という文字列は,〇〇銀行の私の口座の暗証番号です」などです.
では,この意味は獲得したのでしょうか.
そうではないことはお分かり頂けると思います.
そうです,この意味は自分で与えるものなのです.
つまり,児童が学んだ記憶(エピソードや知識)を概念化させるためには,児童自身が意味を与える操作をしなければならないという事になります.そして,自分にとって重要であると判断できたエピソードや知識は,忘れてはならないのです.
この図は,記憶想起によってなされる場面を表した図です.女の子が授業後に,記憶に残っているエピソードの場面や学習のまとめが書かれた板書を記憶想起しながら,大切だと考えているシーンです.
このような事は,これまで文科省の指導要領には明示されていなかったので,現行の教科指導過程では,この手続きを行っていません.つまり,児童が獲得した知識は,即時的に概念化すると考えられていたと言っても過言ではありません.
もちろん,そんな児童も確かに存在しますが少数です.
一方で,1970年代後半から2000年代前半にかけて海馬の研究が進むにつれて,授業と海馬の生理学的機能をどう結び付け,いかにして海馬を利用すればよいかなど議論がなされたことはありませんでした.
つまり現行の一過性の学習過程では,多くの記憶が学習終了後にほとんど利用されずに消え去り,それ故に概念形成できなかった児童が多かったと考えられます.つまり,45分間の学習内容を記憶想起させるような仕組みが,これまでの授業では用意されていなかったという事になります.
私は,このような現行の一過性の学習過程を消極的な概念形成と呼んでいます.
一方で,本研究での記憶想起を主要な手段として活用する概念形成過程は,学習者によって獲得した知識を,納得を伴う児童の精緻な思考過程により,既存の概念や獲得した知識とを一連の関係としてつなぎ合わせる,言わば積極的な概念形成です.
次回は,海馬の学術的研究成果から考えられる学習法と本研究の仮説のまとめについて説明します.
今回も丁寧にお読み頂きありがとうございました.