記憶の再生について考えるブログ

児童がどのようにして学習内容を理解するかを実践経験をもとに紹介しています.

言葉が“絵”になるとき・ならないとき:成層火山と鐘状火山に見る児童のスキーマの差

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 本語で書かれた授業内容の説明は、日本人にとっては理解しやすいものの、英語を母語とする人にとっては理解しにくい場合があります。そのため、英語を母語とする人にも理解しやすいよう、解説を追加しました。

 


 回は,教師による言語を用いた説明が児童の記憶想起や想像にどのように機能するかを確認するため,全ての児童の記憶にないと考えられた「楯状火山」の形を取り上げました.その結果は予想した通りに,『楯状火山の形を描きなさい』という発話による指示だけでは誰一人正しい形を描くことができませんでした.
 まり,児童のスキーマには楯状火山の心象は無かったか,あったとしても「楯状火山」という言語とのつながりはできていなかったという事が明らかになりました.
 こで,次にジェスチャーを利用しようと考えました.心理学者Doreen Kimuraの著書に記述がある「ジェスチャー理論」とは,「ジェスチャーによる非言語と音声による言語は同じ神経システムに依存している」というものです.因みにDoreen Kimuraは神経心理学が専門です.
 こで,ゲームなどで体験したであろうと考えた,盾で攻撃を防ぐジェスチャーをしたところ,見事に児童たちは楯状火山のイメージを想起することができました.
 つまり,発話と同時にジェスチャーを提示すれば,同じ文脈上の情報として,言語の意味の解釈にジェスチャーの動きが利用され,発話された言語の意味解釈が容易になるという事になります.

 調査結果の概要2

 教師の発話⑦:「成層」の漢字の壁

 ⑦『せいそうは成層と書きます』

 「成層火山」の「成層」という言葉を板書したところ,6年生は漢字を習っているため部分的に読めましたが,4年生は「層」を習っていないため理解が難しい様子でした.

 の学校でも,正しく絵を描けた児童はいませんでしたが,「層になる」と読んでイメージを作ろうとした児童が数名いました

 

 教師の発話⑧~⑨:富士山という強力なスキーマ

 ⑧ 『成層火山の形は富士山の形です』
 ⑨『成層火山の形を描きなさい

 層火山の形が「富士山」であると伝えると,児童の反応は一気に変わりました.

「ああっ」「分かった!」という声が自然に出て,すぐに絵を描き始めました. ほとんどの児童が,頂上に雪をかぶった富士山を描きました.

 士山は子どもにとって非常に強いイメージ(スキーマ)であり,既有の記憶と新しい情報が結びついた瞬間が見られました.

 の表でも分かるように,どの学級でも富士山の妥当な表現が多く見受けられました.

 師の発話⑧~⑨に対して児童が見せた反応の一部が次のようなイメージです.

「富士山」の形という教師の発話を受けて児童が描いたイメージ(一部)

 

 教師の発話⑩~⑪ : 釣鐘のイメージは弱い

 ⑩『鐘状火山の形は釣鐘(つりがね)の形です』
 ⑪『釣鐘
を描きなさい』

 状火山が「釣鐘の形」であると伝えた場面では,富士山ほど反応は早くありませんでした.

 鐘の形を正しく描けた児童がわずかにいましたが,ほとんどの児童は釣鐘状の妥当な表現ができませんでした.また,釣り針のような形を描く児童も見られました.

 れは,釣鐘という言葉や形の記憶が,子どもにとって十分に強くないことを示しています.

 の表でも分かるように,どの学級でもほとんどの児童が釣鐘の形を描くことができませんでした.

 り針を描いたと思われる絵図は次のような絵でした.

「つりがね」という言語によって,火山の形の思考から外れ,釣り針の思考をした例

 かがでしたか,児童の思考が教師の発話する言語によって左右されるのが良くお分かりになったのではないでしょうか.

 回は,鐘状火山のモデルである釣鐘のイメージを引き出す,「魔法の言葉」のお話です.お楽しみに.

「たてじょう」は「縦」じゃない!言葉だけで伝わらないイメージを再現するジェスチャーの魔法

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 While the descriptions of classes taught in Japanese are easy for Japanese people to understand, they can be difficult for native English speakers to grasp. Therefore, we have added explanations to make them easier for native English speakers to understand.

 


 回は,授業のシナリオとその指導の意図についてでした.
 状火山・成層火山・鐘状火山という,一般的に小学生が持ちえないそれぞれの火山のイメージを,教師の発話だけで作り上げようという授業計画です. 
 童は,自身が思い描いた火山の絵を描きますが,教師側としては次のような妥当な表現の絵を準備しておく必要があります.

妥当な表現の例

 調査結果の概要1

 教師の発話①〜④:火山の形の理解

 『火山には,色々なタイプがあります. 1つは盾状火山です.このタイプの火山の溶岩は,さらさらしています.2つめは成層火山です.この火山の溶岩は,少しねばねばしているのが特徴です.3つめは鐘状火山です.この火山の溶岩はさらにねばねばしています.』

 ②『盾状火山の形を描きなさい.』

 ③『成層火山の形を描きなさい.』

 ④『鐘状火山の形を描きなさい.』

 教師の発話①の後,②~④を発話して児童に火山の形を描かせたところ,当然の結果ですがA校・B校ともに,ほとんどの児童が正しく描けませんでした. 多くの絵は「なんとなく思い浮かんだ形」を描いたもので,火山の種類の違いを考えることができていませんでした. ただし,盾状火山だけは,どの学校でも「縦に長い山」(左端の絵)として描く児童が見られました.教師が「たてじょう」と発話したことで,「たて」という言語が「縦」という意味に取られたことが分かります.

②~④の指示後に児童が描いた火山のイメージ

 教師の発話⑤-1〜⑥:言葉だけでは伝わらない「盾」の形

 ⑤-1『盾状の盾は,ギリシャの兵士が持っていた盾を伏せた形です.盾を描きなさい.』

 ⑤-2 ※児童の反応を見て,ジェスチャーにより盾で敵の攻撃を防ぐ仕草をする.

 ⑥『盾状火山の形を描きなさい.』

話⑤-1では,教師が「盾を描きなさい」と言葉だけで指示しました.しかし,どの学校でも描けない児童が多くいました.

 こで教師は,⑤-2で「盾で攻撃を防ぐジェスチャー」を加えました. この動作を見たことで,児童は「盾=大きくて平たいもの」というイメージを思い出し,妥当な絵を描けるようになりました.このように,言葉だけでは思い出せない記憶も,ジェスチャーが加わることで再生されることが確認できました.

 回示す調査結果では,子どもが「正しいイメージ(概念)」をつくれたかどうかに注目しています. そこで,子どもが描いた絵を筆者(研究者)が持っている正しいイメージと比べ,

  • 明らかに 盾・富士山・釣鐘 と分かる絵 → 妥当な表現

  • それ以外の絵(白紙も含む) → 妥当でない表現

という2つの区分で整理することにしました.

 

⑤-2のジェスチャーによって児童が描いた盾のイメージの妥当性

 

⑤-2の指示後に児童が描いた盾のイメージ

 

 師の発話⑥後に児童の描いた絵は,次のように平たい山のイメージ図が見られました.

⑥の指示後に児童が描いた盾のイメージ

 のような手法によって,児童自らが練り出したある事柄の概念は,いくつかのエピソードを経て到達した結果であることから,教師から単に提示された概念と異なり,記憶に留まりやすいと考えられます.

 回は,成層火山についてです.

 

 

未認知の言葉から概念を育む:火山の形状指導における教師の発話と認知的アプローチ

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 本語での授業についての記述は,日本人には容易に理解できますが,英語を母語とする人々には理解しづらい内容です.そこで,英語を母語とする人々が理解しやすいように解説を追加しています.

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 回は,授業のシナリオについての説明です.同様の授業を4回行うために,教師の発話を変えないように留意しています.また,同様に板書やジェスチャーも同じタイミングで提示しています.

教師の発話

発 話 内 容
『火山には,色々なタイプがあります. 1つは盾状火山です.このタイプの火山の溶岩は,さらさらしています.2つめは成層火山です.この火山の溶岩は,少しねばねばしているのが特徴です.3つめは鐘状火山です.この火山の溶岩はさらにねばねばしています.』

『盾状火山の形を描きなさい.』(2分間)

『成層火山の形を描きなさい.』(2分間)

『鐘状火山の形を描きなさい.』(2分間)

⑤-1

『盾状の盾は,ギリシャの兵士が持っていた盾を伏せた形です.盾を描きなさい.』 (2分間)
⑤-2 ※児童の反応を見て,ジェスチャーにより盾で敵の攻撃を防ぐ仕草をする.

『盾状火山の形を描きなさい.』(2分間)

『せいそうは成層と書きます.』
  ※板書する.どんな意味かを口頭で聞く.
  ※挙手により児童の反応を見て,次の発話を行う.
『成層火山の形は富士山の形です.』
『成層火山の形を描きなさい.』(2分間)
『鐘状火山の形は釣鐘の形です.』
『釣鐘(つりがね)を描きなさい.』(2分間)
『お寺の釣鐘を描きなさい.』(2分間)
  ※鐘状火山の形は,ほぼ釣鐘と同じであるのでここで終了.
 
火山の形状に関する授業シナリオと指導意図
  • ① 課題の提示
    • 児童にとって未認知の言葉「盾状」「成層」「鐘状」を提示。
  • ②~④ 予想・描画(口頭指示のみ)
    • イメージが湧かない児童はヒューリスティックス(勘)で描く.(「盾状」を縦に長い山と誤解しやすい)
    • 未履修漢字を含む「盾状」「鐘状」は板書せず,口頭のみで伝える.
  • ⑤ 盾状火山の概念形成(ジェスチャーの活用)
    • 「盾」の誤ったイメージを正すため,兵士が盾で攻撃を防ぐジェスチャーを交えて解説する.
  • ⑥ 盾状火山の確認
    • 「盾を伏せた形」という表現が伝わり,正しいイメージを持てたか確認する.

兵士が盾で攻撃を防ぐ図 (AIで作成)

 

  • ⑦ 成層火山の概念形成(漢字の活用)
    • 「成層」と板書し,「層に成る」という意味から内部構造をイメージさせる.
  • ⑧~⑨ 成層火山の補足(既有知識の活用)
    • イメージできない児童には,誰もが知っている「富士山」の形であることを紹介して描かせる.

典型的な富士山の図 (AIで作成)

 

  • ⑩ 鐘状火山の概念形成(具体物の連想)
    • 「釣鐘(つりがね)」の形をイメージさせ,正しい形を描かせる.
  • ⑫ 鐘状火山のヒント(背景知識の活用)
    • 「釣鐘」という言葉を知らない児童へ「お寺の」というヒントを出し,記憶から形を思い出させる.

お寺の釣鐘の図 (AIで作成)

 今回は,授業のシナリオについて紹介しました.次回からは,実践授業の結果について紹介いたします.とても興味深い結果が得られていますのでお楽しみに.


 

耳からの情報だけで勝負!子どもたちの脳内スキーマを開く「火山の授業」

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1-2 先行研究と学校での授業(続き)

 師の何気ない発話やしぐさが,子どもの誤解(誤概念)を生むことがあります.
 研究は,この誤解をどうすれば修正できるかを明らかにすることが目的です.
 体的には,教師がどんな言葉や身振りで説明したときに,子どもが正しいイメージを絵図として描けるかを検証しました.
  • 教師の発話が原因で,子どもが言葉の意味を誤って理解(誤概念を形成)してしまうことがある.
  • らい教師の言葉やジェスチャーによって,その誤解をどう修正できるかを解明する.
  • 教師の説明を聞いた子どもが,頭の中でどのようなイメージ(心象)を思い浮かべているかを「絵」として表現させ,理解度を確認する。 

教師の発話と児童の学習行動のつながりを表した図
 回は,環境の異なる2つの公立小学校で調査を行いました.
 1. どんな子供たちを対象にしたのか?
  • A校(農村部にある学校)
    • 6年生(2010年10月):26名
    • 6年生(2011年10月):28名
  • B校(市街地にある学校)
    • 4年生(2012年2月):31名
    • 4年生(2015年1月):23名
 2. 授業の裏側:あえて「言葉だけ」で情報を伝えるてみる.
 子供たちに余計なプレッシャーを与えないよう,「これはテストじゃないからね!」としっかり伝えた上で,いつもの理科の授業として実施しました.
 調査の手順は,次のようなシンプルなものです.
  1. 耳からの情報だけで勝負!
    まだ習っていない「火山の種類」について,写真や動画は見せず,私の「言葉(音声)」だけで説明しました.
  2. 記憶をたどって絵に描く
    子供たちは,聞いた言葉の響きから「どんな形だろう?」と想像し,ワークシートに自由に火山の絵を描きます.
  3. 伝わり具合をチェック
    描き上がった絵を見ることで,「教師の言葉が,子供の頭の中でどう処理され,どう再現されたか」を分析しました.
 3. 「映像」に頼らない,言葉のキャッチボール
 もし子供たちが言葉を誤解していたら,どう修正するか.ここがこの調査の面白いポイントです.
  • まずは「言葉の言い換え」から
    タブレットやプロジェクターなどの映像資料はあえて使いません.教師側の「話し方や言葉選び」を変えることで,子供たちの頭の中のイメージ(記憶や知識)を修正できるか試しました.
  • 最終手段はジェスチャーと板書
    それでもどうしても言葉だけでは伝わらない場合に限り,身振り手振りのジェスチャーや,黒板への板書でサポートしました.
 4. この調査で目指したこと
 この授業のゴールは,言葉の響きから、自分の記憶の引き出し(スキーマ)を開け、正しいイメージを再生することです.
 子供たちは「TATEJYOU(盾状)」「SEISOU(成層)」「SYOUJYOU(鐘状)」という聞き慣れない言葉から,それぞれの意味を必死に特定し,火山の形を描いていきました.
 授業中は,私が机の間を回ったり(机間指導),挙手をさせたりして,子供たちのイメージの再現度をその場で確認.どのクラスでも同じ条件で言葉の実験ができるよう,一言一句をそろえた「授業のシナリオ」を作って挑みました.
 回は,その授業のシナリオについてです.

 

先行研究から見える授業と言語処理のポイント

Announcement

I am pleased to announce that my doctoral dissertation, “A Study of Teaching Strategies in Elementary School Science Education: Knowledge Structure by Development Type of Semantic Network Model,” which has held the top spot on the “Most Viewed Items” list of the Open University of Japan’s institutional repository for the past two years and six months, has been translated into English and published on Kindle.

The following page features both the Kindle edition and the paperback edition.

Amazon.co.jp: A Study of Teaching Strategies in Elementary School Science Education: - Knowledge Structure by Development Type of Semantic Network Model - (English Edition) eBook : FURUKAWA, YOSHIKI: Kindle Store

In preparation for this publication, I carefully reviewed the original work and made the necessary revisions for the English translation. I hope readers in English-speaking countries will take a look at it.

(日本語訳)

お知らせ

この度,放送大学の機関リポジトリの「最も閲覧されたアイテム」の直近2年6か月の間,1位を続けている私の博士論文「小学校理科教育における指導方略の研究-意味ネットワーク・モデルとその発展型を用いた知識構成-」を英語に翻訳しKindle出版ました.

次のページには,Kindle版とペーパーバック版があります.

Amazon.co.jp: A study of teaching strategies in elementary school science education: - Knowledge structure by development type of semantic network model- (English Edition) eBook : FURUKAWA, YOSHIKI: Kindleストア

今回の出版に際し,原著を再度吟味し,英訳に際して行うべき修正を施しました.英語圏の皆様は,そちらをご覧いただければ幸いです.

続きを読む

教師の発話が生む“理解のずれ”と誤概念形成のメカニズム

 私の博士論文を解説するこの連載も,ずいぶんと長くなりました.

 また,放送大学の機関リポジトリの「最も閲覧されたアイテム」で,かれこれ2年半の間,ずっと1位を続けています.https://ouj.repo.nii.ac.jp/items/ranking 

 

 今回から

第2章「教師の発話に起因した児童の誤概念の修正」

 に入ります.

 この章は,博士論文の文脈の一部に査読論文を充てた箇所となります.また,論理展開の重要な部分に位置付けられており,この章を理解することは記憶再生マップ(MPM)の概念を理解する上でも欠かせないところです.また,それ以外でも,授業を計画する上でも知っておいてほしい内容が書かれています.

 

1.実践授業の授業形態について

 

1-1 はじめに

 

・教師側の現状

 情報の伝達という観点で授業をみれば小学校では,言語音,文字または絵図による情報のやり取りが中心となります.なかでも教師の発話は,授業において主要な情報伝達手段です.しかし,小学校の教師が授業設計をする場合,中心的な発話を除いては,発話内容の細部までを十分に吟味しているわけではありません.つまり,演劇のシナリオのように,教師の動きや発話内容を逐一詳細に記述することはないのです. 

 授業において教師は,児童の発達段階に応じて,言語を選びながら発話します.しかし,その内容が正しく児童に伝わっているかを,一人ひとりに確認しようとしても現実的にできることではありません.授業中の教師は,児童のつぶやきや表情,発言や行動などの反応により,自分が発話した言語が正しく伝わっているかを判断しながら授業を進めています. 

授業風景(AIによる)

・児童側の現状

 一方,教師の言葉が正しく伝わらないとき,児童は戸惑ったり,教師の指示する作業ができなかったりして学習が停滞します.つまり,教師の言語音が十分に理解できない状態では,このようなことが起こりうるのです.これは,認知後にスキーマを手掛かりに長期記憶の検索を行っても,適切な解が見つけられない場合であると考えられます.また,自己の持つスキーマの中に認知した言語に関連した項目がない場合は,誤概念が形成される可能性もあります.

 

・原因

 これは,教師が推測する児童の語彙力と実際に児童が持っている語彙力との間に相当の差がある場合であると考えられます.ただし,このような差は,教師が話す内容の全てで起こるわけではなく,その多くが名詞・動詞・代名詞など自立語の一部で起こります.

 

教科書に記載された言語について

 さらに,言語音だけでなく教科書に記載されている書き言葉を十分に理解できない児童もいます教科書に掲載されている語句や表現は,教師の言語音によって児童に伝えられる頻度が高いです.ところが,児童が自己のスキーマを検索しても解決できない語句や表現が数多く見受けられます

  例えば,以前に書いたブログでも紹介しましたが,5年生の学習では,砂糖や食塩などを水に溶かす「溶解」について学ぶことになっていますが,5年生の8割は「とける」には「融解」の概念を抱いていました.つまり,教員の発する「とける」という言葉だけでも,このような概念間の相違がみられるのです.

 また,小学校における教師と児童の言語音によるコミュニケーションは,それぞれの児童が持つスキーマの違いが大きく,教師の考えとはかけ離れた理解をする場合があることも,事前の調査で示されました.

 

現下の能力よりも重要なもの:ヴィゴツキーが見た発達の可能性

 回は,ヴィゴツキーによる発達の最近接領域の話題の続きです.

 回の話が,「発達の最近接領域」という言語を伴って,授業における指導法に絡めた一般的な話題になります.

 ィゴツキーは,前回の説明で例示した2人の子どもについて,8歳の問題を解いたことから同一の知能水準であるけれども,「発達状態も一致していると言えるか」と自問し,「明らかに違う」と自答しています.

 かに下の図を見ると,8歳としては同一の知能水準と言えます.しかし,AとBの子どもが知能に関してどれだけ発達しているかは,ⒶとⒷを見ると明らかとなります.当然,Ⓑの子どもの発達が進んでいますよね.

 ィゴツキーは,AとBの子どもの知能水準が,8歳現在でほぼ同じであるということよりも,ⒶとⒷのようなそれぞれの子どもの発達の最近接領域の違いに注目しているのです.この違いが,AとBの子どもの「学習の相対成績」に現れると説いています.このことを次のような言葉で示しています.

「発達の最近接領域は,発達の現下の水準よりも,知能の発達や成績の動態により直接的な意義をもつ」

「思考と言語」の記述をもとに作成した発達の最近接領域の説明図

 ィゴツキーは次に,発達の最近接領域について言及しています.つまり現下の知能の発達水準よりも,ⒶやⒷといった発達の最近接領域が重要であると述べて,そのための共同学習において,友達や教師などからの助けがあれば,子どもは自分一人でするときよりも多くの問題や解決が困難な問題を解くことができるということは,議論の余地はないとまで言い切っています.

 のことだけからしても,共同で学習させることには意義があると言えそうです.

 かしヴィゴツキーは,ある子どもを共同で学習させることで,その子が得た解答を「非自主的解答」と呼び,それは知能発達の指標や兆候にはふつうはならないだろうと述べ,そのような学びを「模倣」と称し,古い心理学の常識からは,模倣は機械的な活動と見る考えが根付いていると述べています.

 して,模倣は誰にでもできることですし,教えてもらいながらの学びでもあり,自分の知識については何も利用することもないので,発達状態を表すことは決してできないということがこれまでの常識であったとしています.

 ころが,ヴィゴツキーは,このような考えは間違っていると否定したのです.つまり,子どもは自身の知能の利用可能な領域内にあるもののみを模倣することができるということを主張しました.

 まり,自分よりも能力の高い人からの支援を受けて学ぶときには,自身のスキーマにある知識が使える時に,模倣することができるということになります.

 た,教える立場の人からは,相手のスキーマを考慮しながら指導することが重要であることが分かります.これは,教師としての指導においても同様で,以前にもこのブログで述べたとおりです.

 すから,学校教育においては,教える立場も習う立場も同じ児童であることが理想的であると言えます.なぜならば,同じ児童同士は,互いにどのようなスキーマが形成されているか(=どのようなエピソード記憶や意味記憶を保持しているか)などは既知であるからです.

 ィゴツキーの発達の最近接領域の理論については,ここで終了して次に移りたいと思います.

 

『思考と言語』から再考する「発達の最近接領域」:成熟した機能と成熟しつつある機能

 界の至る所で戦火が広がり,多くの人々の日常生活が奪われている現在,私たち教育に関わる者たちは,少なくとも教え子が戦火に巻き込まれることが無いような社会を目指して,日々の教育に対して責任を持つことが大切ではないかと考えてしまいます.

 ット等では,日本のこれまでの教育について批判的に意見を語る論客も最近増えてきたようですが,皆様はお感じになりませんか.一方で,私の身近な友(退職教員)が,これまでの日本の教育にどのような問題点があるか分からないと言っていました.実に悲しい話です.

 て,今回はヴィゴツキーによる発達の最近接領域の話題についてです.この内容については,「思考と言語」のp297 L16から約6ページにわたって書かれています.

 達の最近接領域については,多くの人がWeb上で説明を行っていますので,ここで改めて説明を行うのではなく,ヴィゴツキーが著書「思考と言語」でどのような説明を行ったかについて解説することにします.

 ①子どもの知的発達の水準について

 この章のはじめにヴィゴツキーは,「思考と言語」を記述するまでの心理学研究では,ふつうの子供の知的発達に限定して研究がなされてきたと述べ,子どもの発達状態をふつうの子どもの知的発達の水準だけで決定するのは不十分だと述べています.

 

 ②知的発達の水準の決め方について

 続いてヴィゴツキーは,このような水準をどのようにして決めるのかについては,子どもが自主的(注:おそらくは自力の意味)に解いた問題で決めると述べています.さらに,この水準については,「今日(today)」という言語を用いて表現していることから,日々変化する量であるという認識を持っていることも分かります.

 ここで余談ですが,既出の元教員の友は,子どもが書いた事からは,子どもが理解したことは分からないという意味不明な事を言っていますが,私にしてみれば,その友の言っていることが意味不明です.(^^;)

 

 ③発達の最近接領域の発想

 ヴィゴツキーは,はじめは今の発達水準だけを決定すると述べていながら,子どもの発達状態というのは,今の発達水準(注:これを成熟した部分と呼んでいます)だけで決定されるものではないと,自分の述べた事を否定しています.

 そして,リンゴ園の経営者が成熟した実を結んでいるリンゴの木だけで,リンゴ園の状態を明らかにしようとするのは間違いであると指摘したうえで,心理学者も子どもの発達状態を評価するとき,成熟した機能(=子どもができること)だけでなく,成熟しつつある機能(=子どもができつつあること)を,「発達の最近接領域」という言語を使用して,考慮しなければならないと述べています.つまり,子どもの発達状態を評価するには,現在の水準はもちろんですが,成熟に最も近づいた次に発達する領域をも考慮しなければならないと言うのです.これが発達の最近接領域の意味です.

 

 ④子どもの今の発達水準の決定方法

 ここで述べているのは,知能の発達であることを抑えて置く必要があります.つまり知的発達です.ヴィゴツキーは,今の(知的)発達水準を決定するときには,子どもが自力で問題を解く必要があることを強調しています.つまり,他者の力を借りた解決では測定できないということです.このときに出される問題は,既に成熟した機能のみを測定できる問題が利用されると述べています.ですから,学校教育の中で一般的に行われている評価テストが,凡そこれに該当します.

 

 発達の最近接領域についての思考実験

 ヴィゴツキーは,このあと思考実験を試みます.彼は,同じ8歳の知能年齢を持つ2人の子どもを想定しました.そして,彼らが自主的には解くことができない,その後の年齢の問題,つまり9歳の問題から12歳の問題を用意します.次に,これらのうち9歳の問題から順に誘導質問や解答のヒントなどを与えて教示しながら,彼らがどのように解くかを明らかにしようとします.

 すると彼らのうちの1人は,12歳までの問題を解くことができたのに対して,もう1人は,9歳までの問題までしか解くことができなかったと仮定しました.このときの2人の子どもが問題を解く様子としては,「共同のなかで助けられ,指示に従いながら」という記述があります.これが,どの程度の支援なのかは不明ですが,私の経験から考えるに,かなり支援の度合いが高いように感じました.

 この思考実験の結果を図にすると,次のようになると考えます.

「思考と言語」の記述をもとに作成した発達の最近接領域の説明図(無断転用は禁止します)

 ヴィゴツキーは,子どもAと子どもBの発達の最近接領域について,子どもAでは「1」で表され,子どもBでは「4」で表されると述べています.つまり,発達の最近接領域は,個々人でユニークで異なる値を示すということです.

 ここでヴィゴツキーは,さらに重要な提言を行っています.つまり,8歳までの問題においては,AとBの二人の子どもは同一の知能水準であると認められますが,発達状況においては二人は一致していないと強調しているのです.

 回はここまでとします.次回も,発達の最近接領域についてのヴィゴツキーの記述を読み解いていきたいと思います.

「脳内を覗く:私たちの思考は『言葉』ではなく『イメージ』で動いている」

 回は,次に挙げる博士論文の(A)の部分,つまり「学校教育においては内言による思考が重要であること」を紹介しました.

 の回では,(B)の内容について紹介したいと思います.

 習における思考活動において,ヴィゴツキーが「真の意味の思考になる」と述べた自己中心的言語は,生理学的には外言であるが発話の対象を自己の外に置かないことから内言であるという.つまり,このとき児童は,自分のために発話しているのであり思考しているのだ.また,学齢期の児童は内言を思考の手段として利用することが可能となる時期でもある.従って,学習の過程においてこの思考過程を仕組むことが大切であろう.・・・・(A)

 また,我々は心象によって思考する真の意味での思考の転写は,自己中心的言語によって発話され,それをもとに描かれる心象のみであると考えられる.従って,記号ではなく絵図による表出を児童の活動に仕組まなければならない.そして,その事を経て児童は思考の結果を記号化する.・・・・(B)

 のことを考える前に,最近の話題である衆議院議員選挙についてですが,自民党の大勝という結果に終わりましたね.このことは,少し今回の内容に関係がありそうです.

 さんはどうして自民党が,高市さんに対する多くの批判的なYouTube動画等が再生されたにも関わらず大勝したと思われますか.また一方で,YouTubeはよく見るけど,そんな動画は見なかったという人もいます.その仕組みについても書いてみました.

 憶の再生について考えるブログ別版」にその短縮版を掲載しています.あくまでも一個人としての考えですので,ご批判もあられるとは思いますが,よしなにお願いいたします.(^^;)

 て,今回のテーマに最も関係が深いのが心象です.心象とは,いわゆるイメージと捉えてもらって構いません.広辞苑には,「〔心〕意識に浮かんだ姿や像.心像(しんぞう)」と書かれています.

 れから,人間は心象によって思考するということについて考えてみます.そのためにはやはりヴィゴツキーの「思考と言語」を読み返して,心象についての記述を確認する必要がありそうです.そのうえで,自分自身の脳内を覗いてみましょう.

 「思考と言語」は,かなり読みごたえがある書物で,心象やイメージについての直接的な記述はなかなか見つけることができません.例えばこれは以前にも紹介したページですが,「第七章 思想と言葉」のp397 L9には,次のような記述があります.

 『内言を外言の記憶の形象における再生とみる筆者(注:ヴィゴツキー)だけが,内言を外言の鏡のような反映と見ているのである.』

 の主張は,ヴィゴツキーが内言の構文法を調査しているときに,当時の研究者と同様に内言は外言に比べて断片的であり,不完全であり,また,省略されていることを発見したが,自分(ヴィゴツキー)だけがその内言は外言の鏡のような反映と捉えていると主張する過程で出てきたものです.

 かに,自分自身の内言を省察すれば,その言語は完全な文ではないことが分かります.もし,完全な文が必要であったら,たぶん生きることは難しいはずです.なぜなら,読むのに時間がかかりすぎて会話が成立しなかったり,危険が迫っても自分自身の身体の安全を保てなかったりするからです.ところがその断片的で,不完全で,あるいは省略されている内言が,完璧な思考をもたらしてくれます. 

思考する人(AIにより作成)

 れが,内言を外言の記憶の形象における再生とみるという部分です.①形象とは広辞苑によれば,表に現れた形,姿,②人間によって知覚された事物の像,また観念などの具象化された像という説明がなされています.これはまさにイメージのことであると思われます.

 「外言の記憶」とは,外言によって表される過去の記憶という意味です.

 「その形象における再生」とは,過去の出来事のイメージの再生,つまりそれは記憶想起と考えられます.その実体はエピソード記憶であり,その再生ということです.

 たがって,内言はエピソード記憶の再生であり,またすでに獲得した意味があれば内言は意味記憶の再生でもあるということになります.

 は生活をする中で,様々な事柄の経験を記憶します.そのことについては,外言を用いてその内容を誰かに伝えることもできます.

 ここでヴィゴツキーが言っていることは,外言によって示される事柄の記憶想起されるイメージを伴った映像の内容が,内言という極めて断片的で不完全で省略されるような短い言語として発生し,その事によって思考がなされるということです.これは所謂,チャンキングのようなもので,ごく短時間で思考が完結するという素晴らしい効果を持った仕組みと言えます.

 に,「真の意味での思考の転写は,自己中心的言語によって発話され,それをもとに描かれる心象のみであると考えられるについて考えてみましょう.

 写とは広辞苑によると,文章・絵などを他のものから写し取ることと説明されています.ここで述べていることは,真の意味の思考とはどのようなものであるかということです.

 の思考,つまりその人が何を考えたのかは,脳内を覗くことができたとしても可視化できません.思考が言語ではなく心象(イメージ)によってなされ,その結果としての自己中心的言語(内言)が自らに向けて発話され,その記号化された言語から紙などに描かれたイメージが,その時の思考の本質であり意味であると言えます.

人間の思考の時間的経過(一例)

 れでは最後の部分,従って,記号ではなく絵図による表出を児童の活動に仕組まなければならない.そして,その事を経て児童は思考の結果を記号化する.」の説明です.

 般的な授業では,記号(文字)で全ての学習行動を処理しようとされる先生がおられますが,今回の内容をご理解いただけるのなら,それはかなり無理のある授業になります.それは,どの教科でも同様です.必ずといっても良い程に,児童生徒の学習行動では,どこかに絵図を描かせる過程を盛り込む必要があります.そのような思考の吐き出しを経て,記号化(文字化)をさせることが肝要だと思います.私の考案した「記憶再生マップ」では,絵図を多用し,それに付随させて文字による説明を書かせています.すると,ほぼ全員の児童が自分自身の学習について発話することができました.その理由は,今回の説明によってご理解いただけたなら幸いです.

 談ですが,私はかつて指導案をイメージを多用して描いた(書いた)ことがありました,当然ながらそれを理解できる先生など誰もいませんでした.

 回の投稿はこれで終わります.次回は,ヴィゴツキーによる発達の最近接領域の問題についてです.

 知らせ.現在,放送大学機関リポジトリでは,このブログで紹介している私の博士論文「小学校理科教育における指導方略の研究-意味ネットワーク・モデルとその発展型を用いた知識構成-」が再び「最も閲覧されたアイテム」において1位を継続しています.これは,2023年の12月から1位を続けていましたが,数か月だけ2位,3位に順位を下げ,再び1位に返り咲いたものです.そこで,英語圏の研究者向けに翻訳作業を行っています.予定では,4~5月頃に出版したいと思っています.このサイトにも海外からのアクセスがあっています.海外の皆様,もうしばらくお待ちください.

 

Notice. Currently, my doctoral dissertation “A study of teaching strategies in elementary school science education - Knowledge structure by development type of semantic network model-” introduced on this blog, continues to hold the top spot in the “Most Viewed Items” category on the Open University of Japan Institutional Repository. It had maintained the number one position since December 2023, briefly dropped to second and third place for a few months, and has now regained the top spot. Therefore, I am currently working on a translation for researchers in English-speaking countries. I plan to publish it around April or May. This site also receives access from overseas. To our international readers, please bear with us a little longer.

ことばが思考を導くとき:書き言葉と自己中心的言語の教育的意義

 2026年になりました.今年もよろしくお願いいたします.

 ころで,皆さんは1月7日(水)にNHKで放送されたクローズアップ現代最近,手書きしていますか? 最新研究が明かす"頭を動かす力"」をご覧になったでしょうか.

 校現場に限らず様々な領域でデジタル機器が浸透して,人間の書く能力が低下している現状が指摘されています.この番組は,手書きの重要性について再認識できる内容となっています.番組の途中でビデオ出演されている東京大学酒井邦嘉さんですが,ご専門が脳機能解析学と言語脳科学ですので,以前から先生のご研究には注目していました.

 の研究で使用している「記憶再生マップ」も手書きなので,その効果はこの番組で糸井重里さんらが語られている内容とかなりの部分で親和性があります.

 組の内容を簡単に書くと,次のようになります.

  • 手書き離れの影響スマホやPCの普及で「漢字が思い出せない」「字が下手になった」と感じる人が増加.研究では,手書きの減少が学力や認知機能の低下に関係する可能性が示唆されています.

  • 世界の動きスウェーデンなどでは,教育現場で再び「紙と鉛筆」を重視する動きが進行中.デジタルと手書きのバランスを見直す流れが広がっています.

  • 脳科学の視点:手書きは「マルチモーダル」な脳の働きを促し,記憶や思考の整理に効果的.MRI研究でも、紙に書くことで記憶の定着が高まることが示されています.

  • ジャーナリングの実践:社会人が「書く習慣」として取り入れる「マインドフル・ジャーナリング」も紹介され,思考の整理や自己理解に役立つと注目されています.

 回のテーマは,書き言葉自己中心的言語についてです.最初に書き言葉については博論では,ヴィゴツキーの考えを取り上げています.書き言葉はヴィゴツキーによれば,「通常の言語活動から切り離されたイントネーションを持たない言語であり,具体的な会話場面なしに行われる言語として,例えば,話し言葉を算数に例えるならば,書き言葉は代数と同じ関係にある」と指摘しています.

 の言葉の意味は,算数に例えられた話し言葉は,目の前に相手がいるので表情や声のトーン(イントネーション)で意味を捉えることができます.「これ」や「それ」,「あれ」などの曖昧な言葉も,相手と状況が共有されていれば意味が通じることになります.

話し言葉による会話 (生成AIによる図)

 かし,代数に例えられた書き言葉は,相手が目の前にいないので,状況が共有されないために,全てのことを明確に,また,論理的に書かないと意味が伝わりません.さらにイントネーションや表情の情報が使えないので,文章の構造や文法,語彙選びがとても重要になってきます.つまり,代数のように抽象的で一般化された表現が求められます.

書き言葉の記述 (生成AIによる図)

 れまで私たち教師は,一見簡便と思われる思考の表現として書き言葉を児童・生徒に要求してきましたが,実は難しい学習行動だったようです.

 

 は自己中心的言語についてです.博論では授業における思考活動について次のような考察をしています.

 習における思考活動において,ヴィゴツキーが「真の意味の思考になる」と述べた自己中心的言語は,生理学的には外言であるが発話の対象を自己の外に置かないことから内言であるという.つまり,このとき児童は,自分のために発話しているのであり思考しているのだ.また,学齢期の児童は内言を思考の手段として利用することが可能となる時期でもある.従って,学習の過程においてこの思考過程を仕組むことが大切であろう.・・・・(A)

 た,我々は心象によって思考する.真の意味での思考の転写は,自己中心的言語によって発話され,それをもとに描かれる心象のみであると考えられる.従って,記号ではなく絵図による表出を児童の活動に仕組まなければならない.そして,その事を経て児童は思考の結果を記号化する.・・・・(B)

 れらの内容で,今回は(A)について解説します.ヴィゴツキーが言う「真の意味での思考」とは,これまでにお話しした「ことば(言語)と思考の関係図」で言えば,

ヴィゴツキー著,「思考と言語」よりFurukawaが作成した関係図 (無断転用を禁止します)

ピンク色の部分となります.つまり言語的思考が真の意味での思考であると述べています.ではなぜヴィゴツキーが,このような主張をしたのかを考えてみましょう.

 ィゴツキーの著書「思考と言語」(日本語訳本)で,このことが記述されているのは,p133 L1~L4です.

「自己中心的ことばの問題にたち帰るなら,われわれは,明らかに自己中心的ことばは,純粋に表現的な機能放電の機能のほかに,子どもの活動にたんに同伴するということのほかに,きわめて容易に真の意味の思考となるということ,すなわち計画的操作の機能行動のなかで発生した新しい問題を解決する機能をはたすということを言わなければならない.」

 の文章を一つ一つ考えていきます.主語は自己中心的ことば(言語)です.自己中心的ことば(言語)とは,前回の記事で女子児童が呟いていたあの言葉です.これは主に「呟き」という形態で発話されます.ですから表現的な機能としては,その時の気持ちが素直に出てきます.例えば,「えっ」,「そうか・・・」,「あ~あっ」,「なるほど」などの感嘆の表出のことを述べています.

 れと似たものに放電の機能があります.心理学で言う放電は,心の緊張やストレスを軽減するための身体の作用で,「呟き」によってネガティブな考えを捨て去るなどはこれに当たると思います.例えば「くそっ!」という呟きを発して,次の行動に移るときや,「しかたないなぁ」と呟いて,もっと先の行動に目を向けるなどのことです.

 どもの活動にたんに同伴するとは,小さな子供が何かぶつぶつ言いながら遊んでいる時の「ぶつぶつ」を指します.

 ィゴツキーは,これらの事の他に自己中心的ことばがきわめて容易に真の意味の思考となると述べています.「容易に」かどうかは,議論の分かれるところでしょうが,ヴィゴツキーが「容易に」の前に「きわめて」と言っている意味は大きいと考えます.自己中心的ことば(言語)を発話すること自体に,意味を見出したのかも知れません.それは,自分自身に向けられたことばなので,自身にフィードバックされて入力される訳です.例えば,何かの問題について「これはどういうことか・・・」と呟いた矛先は自身に向けられるので,さらに思考が継続します.何かの問題点の解決策を考えている時に,思いついた策を呟くことで,自身に対する解決策について,一層と思考が深まるかも知れません.

 ィゴツキーは,この後,「すなわち」と続けています.ここが重要な箇所です.それは,計画的操作の機能です.この部分の解釈で生成AIを使ってみましょう.どのように説明するでしょうか.真の意味の思考」という部分の解釈が肝です.

 最初にCopilotの解釈です.

 この一節でヴィゴツキーが述べている「計画的操作の機能」とは、子どもが自己中心的ことばを使うことで、自分の行動を意図的に調整・制御し、新たな課題に対処する力を発揮するという意味です。

 つまり、自己中心的ことば(子どもが独り言のように話すこと)は、単なる感情の発散や行動の伴奏ではなく、思考の道具としての役割を果たしているということ。子どもはこの言葉を通して、自分の行動を「計画」し、「操作」し、目の前の問題をどう解決するかを考えているのです。

 たとえば、積み木で遊んでいる子が「こっちに置いて…次は高くしよう」とつぶやくとき、それは単なる独り言ではなく、自分の行動を導く内的な思考プロセスが言葉として現れている状態。ヴィゴツキーは、こうした言葉の使い方が、やがて内言(内なる言葉)へと発展し、より高度な思考の基盤になると考えました。

 次にGemini3の解釈.

 1. 「放電」から「手段」への転換
 初期の自己中心的ことば(独り言)は、驚きや不満などの感情を吐き出すだけの「放電的」なもの、あるいは行動に付随しているだけの「伴奏」のようなものです。 しかし、子どもが何らかの困難(例:絵を描いている時に鉛筆が折れる)に直面したとき、ことばの性質が変わります。「どうしよう?」「あ、あっちのを使おう」と独り言を言うことで、ことばは「問題を解決するための手段」へと変貌します。

 2. 「計画的操作」の具体的な意味
 「計画的操作」とは、未来の行動を頭の中で組み立て、自分自身の振る舞いを規定する機能です。

 以前: 行動が先で、ことばは後からついてくる(または同時)。

 計画的操作: ことばによって「まずAをして、次にBをする」という設計図を頭の中に描き、それに従って体を動かす。

 つまり、ことばが「行動の設計図」になることを指しています。

 3. 外的言語から内的言語への橋渡し
 ヴィゴツキーはこのプロセスを、「思考の知性化」のプロセスであると考えています。 自分の外側に向けて発せられていた「独り言」が、問題を解決するために「自分自身へ向けた指示」へと変わる。これが後の「内言(頭の中の声)」となり、私たちが大人になってから行う「論理的思考」の基礎になります。

 解釈のまとめ
 この一節でヴィゴツキーが強調しているのは、「独り言は無意味な未熟さの表れではなく、子どもが自分の意志で行動をコントロールし、論理的に問題を解こうとする『思考の誕生』の瞬間である」ということです。

 のような真の意味での思考は,前回(12月12日投稿)の女子児童の事例でお話をさせていただいた「熟考」に至る思考です.学校現場の授業をみると,様々な工夫がなされた授業が展開されていますが,指導すべき内容と指導時間との兼ね合いもあり児童・生徒が熟考する機会はあまり無いのではないかと感じています.

 考は言語的思考を伴いますので,脳内には言語が出現します.上の関係図ではピンクの部分ですが,それは誰かと会話するためのものではなく,自身に向けられていると考えることが重要です.ですから,誰かの発話・発言は,その人の思考の結果としての空気振動ということになります.従って,他者の発話・発言は,その人の過去の思考の結果であり,その意図を伝えるための作戦であり,それを読み解かなければ分かりません.

 た,生成AIの解説を読まれてピンとこられたと思いますが,文科省が言う自己調整学習との関係があります.簡潔に言えば,自己調整力を高めるためには,自己中心的言語を利用する熟考に自分自身を置かなければならないと言うことになります.このことは,文科省等の説明では,触れていないようですがとても重要なことですが,実践はしやすいと思います.

 回も長くなりました.次回は(B)について説明します.丁寧にお読みいただきありがとうございました.